人類がこれまで経験してきた感染症のパンデミックの歴史
2020年2月27日現在、新型コロナウイルスが猛威を振るっており、全国の小中学校の全面休校と言う異例の事態となっています。今のところ、治療法もワクチンもなく感染国の中国に拠点を持つ日本企業の社員たちの一時帰国が行われています。
感染が短期間で世界的に拡大し、多くの人が年齢を問わず感染するパンデミックは、これまでの歴史で人類は何度か経験をしてきました。
このような細菌やウイルスが体内に入り込み病を引き起こすことを感染症と呼びます。
その病原体も、寄生虫のように目に見える物から、細菌やウイルスのように顕微鏡などでしか確認できない物もあります。
今回は、私たち人類がどのような感染症と向き合ってきたのかを振り返ってみたいと思います。
細菌とウイルスの違い
本題に移る前に、細菌とウイルスの違いを押さえておきましょう。
細菌とは、目で見る事の出来ない小さな生物で、人体に入ると病気を起こすものもいれば、納豆菌などの私たちの生活に役に立つ細菌もいます。病気を引き起こす細菌として、大腸菌や結核菌などが有名です。
ウイルスとは、細菌の50分の一~100分の一の大きさでとても小さく、電子顕微鏡でなければ確認ができません。風邪やインフルエンザ、ノロウイルスなどが有名で、細菌と大きさや仕組みが違うので、抗生物質が効かないのが特徴です。
人類が遭遇した感染症との戦い
感染症 | 時代 | 感染者数など |
天然痘
人類が根絶した唯一の感染症 |
紀元前:エジプトのミイラからその痕跡がみられる
6世紀:日本で天然痘が流行、以後、周期的に流行する 15世紀:コロンブスの新大陸上陸により、アメリカ大陸で大流行 1980年:WHOが天然痘の世界根絶宣言 |
50年で人口が8000万人から1000万人に減少
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ペスト【黒死病】 |
540年頃:ヨーロッパの中心都市ビザンチウム(コンスタンチノーブル)に広がる 14世紀:ヨーロッパで「黒死病」と呼ばれるペスト大流行
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最大で1日1万人の死者が出たといわれる ヨーロッパだけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人の死亡といわれる |
新型インフルエンザ | 1918年:スペインかぜが大流行
1957年:アジアかぜの大流行 1968年:香港かぜの大流行 2009年:新型インフルエンザ(A/H1N1)
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世界で4000万人以上が死亡(当時の世界人口18億人)したと推定される
世界で200万人以上の死亡と推定 世界で100万人以上の死亡と推定 世界の214カ国・地域で感染を確認、1万8449人の死亡者(WHO、2010年8月1日時点) |
新興感染症 | 1981年:エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV)
1996年:プリオン病
1997年:高病原性鳥インフルエンザ
2002年:SARS(重症急性呼吸器症候群) |
過去20年間で6500万人が感染、2500万が死亡
イギリスでクロイツフェルト・ヤコブ病と狂牛病との関連性が指摘される 人での高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)発症者 397人、死亡者249人 9ヶ月で患者数8093人、774人が死亡 |
再興感染症 | 結核 紀元前:エジプトのミイラに結核の痕跡がみられる1935~:結核が日本での死亡原因の首位1950年:抗生物質により発生減少現在:抗生物質に対して抵抗性を示す結核菌が現れる
マラリア 6世紀:ローマ帝国を中心に大流行 1950年代:殺虫剤DDTなどによる根絶計画実施 現在:DDT抵抗性のハマダラカが出現 |
世界で20億人が感染、毎年400万人が死亡
世界で年間3~5億人感染、100~200万人が死亡 |
人類初のパンデミック
歴史上記録に残っているパンデミックは、紀元前5世紀の中頃にアテネとスパルタが30年位戦ったペロポネソスの戦いの頃でした。この戦いで最終的にはアテネが敗れるのですが、その敗北した原因が感染症だと言われています。
歴史家のトゥキュディデスが記した書には、【患者から看護人へ病が移り、患者に近づけばたちまち感染した。治療法はないが、一旦罹患すれば再感染しても致命傷にはならない特徴がある】と記しています。
この症状から推測するにこの感染症は天然痘ではないかと考えられています。
この時のパンデミックの範囲は、都市国家内ではありましたが、人類初めての記録に残っているパンデミックです。
黒死病【ペスト】の大流行
天然痘の次にパンデミックになったのがペストで、別名【黒死病】と呼ばれていました。
始めに、2世紀のローマ帝国で発生し、350万人~700万人が犠牲になったとされています。一日に1万人の人がペストの犠牲になったとも言われています。
当時のローマ帝国が6000万人の人口が居たと言われていたので、まさに1割の人がペストになって死んだとと言う事になります。
6世紀になってもペストの脅威は収まらず、東ローマ帝国の時代にも大流行し、当時の人口の半分である5000万人が犠牲となる事態となりました。
そして、世界史の授業でも習うであろう、14世紀ヨーロッパで大流行したペストでは、当時のヨーロッパの人口の6割に相当する3000万人が犠牲になり、世界全体でのペスト死亡数は1億人にも上りました。
ヨーロッパのペストは、6世紀の大流行以降は消滅してたのですが、モンゴル帝国がヨーロッパに侵攻した際に、当時中国で流行してたペストを兵士が持ち込んだのでは?と考えられています。
検疫の始まり
14世紀のペストのパンデミックになった時に、世界で初めての検疫が始まりました。
ベネチアのような島国では、外国からの船の往来が多く、その乗組員がどんな病気を持ち込むかわからなので、近くの無人島などに船を止めさせて40日間滞在してもらい、異常が無ければ上陸してもよいと言う方法で検疫を行っていました。
現在、日本での検疫体制は【感染症の予防及び感染症患者に対する医医療に関する法律】に定められており、そこに目を通す限り【感染症】により停留期間が定められているようでした。
新大陸から梅毒が大流行
15世紀に、スペインやポルトガルが南北のアメリカ大陸を征服した時に、免疫が無かった原住民がコレラやペスト、インフルエンザに一斉にかかり、メキシコでは人口の8割が命を落とす大惨事になりました。
しかし、原住民たちも黙ってはいるわけではなく、逆に原住民からヨーロッパ人たちへ梅毒がうつされ、コロンブスが帰国した時から数年後にはヨーロッパ-全域に梅毒が伝染し500万に以上が感染し、犠牲となりました。
この梅毒は16世紀初めには日本にも上陸し、わずか100年で梅毒が地球を半周したことになります。
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新型インフルエンザのパンデミック
このインフルエンザも毎年流行して、学級閉鎖や学校閉鎖などが起こります。
インフルエンザは、第一次世界大戦が終わりころの1918年にシカゴで発生した伝染病です。この時にシカゴでインフルエンザに罹った兵隊さんがヨーロッパに遠征をしてきて、広まったとされています。
その感染者は、6億人で死亡者も4000万人~5000万人に上るそうです。
当時の世界人口が12億人と言う事を考えると、まさに半分の人がインフルエンザに罹った事になります。
このインフルは日本にも感染者が多数おり、東京駅の設計者である辰野金吾や劇作家の島村抱月が日本人の志望者30万人の内の2人でした。
他の新しい感染症
20世紀にはいると、3回ほどのパンデミックが起こっており、特に1957年のアジア風邪、1960年の香港風邪が有名で、アジア風邪では200万人、香港風邪では100万人が亡くなりました。
21世紀にはいってもインフルエンザは大流行しましたが、死者は14000人ほどだったようで、しっかりと対策が取られたようです。
しかし、1976年にエボラ出血熱がアフリカで発生し、治療法が見つからずに感染だけが拡大していきました。エイズも1981年に発生し、これも有効な治療法が見つからずドンドンと感染が拡大していきました。
10年後には100万に以上の感染者を確認しました。
2020年の新型コロナウイルス発生
そして、2020年に発生した新型コロナウイルスとなるのですが、2002年のSARS(サーズ)と2012年のMERS(マーズ)は同じコロナウイルスによるものなのですが、これらの新型が今回のウイルスとなります。
では、どうしてこのようにパンデミックが起こるのでしょうか?
一つは、先進諸国から発展途上国に進出してくる事によって、それまで出会った事のなかった病気に出会い感染し、持ち帰ってしまいます。当然未知の病気で、抵抗力が無いのであっという間に大流行してしまいます。
さらに現在の大きな要因として、国際的な旅行ブームで人の行き来が多くなったことが挙げられます。30年前は、世界の観光客数は4億人に対し、現在では14億人も人の行き来があります。今回の、一連のコロナウイルスは、日本でも観光色が強いところに感染者が多いような気がします。
インフルエンザに関していえば、動物に感染しそれがまた人間に感染した時に突然変異をして、これまでのワクチン等が使えなくなってしまう事でパンデミックを引き起こします。
人類は紀元前の昔から、さまざまな感染症と戦ってきました。
原因も治療も十分に確立されていなかった時代には、感染症のパンデミックは歴史を変える程の影響を及ぼしてきましたが、感染症をもたらす病原体や対処方法が分かってきた19世紀後半になると、その感染症での死亡者数が激減しました。
しかし、近年では以前には知られてなかった新たな感染症である【新興感染症】や過去に流行した感染症で一時は発生数が減少したものの変異を経て出現した感染症【再興感染症】が問題となっています。