日本国憲法の成立と三大原則、大日本帝国憲法との違いとは?
現在の憲法である日本国憲法は、先の戦争で敗北した後に明治以降に公布された大日本帝国憲法をを改正する形で1947年5月3日に施行されました。
戦後75年たった今では、大日本帝国憲法自体の存在が分からない人が多いですが、現行憲法と具体的にどこが違うのでしょうか?
憲法改正論がささやかれる中、今回は『日本国憲法』について簡単にわかりやすく書きながら、大日本帝国憲法との違いにも触れていきたいと思います。
大日本帝国憲法と日本国憲法の違い
大日本帝国憲法 | 日本国憲法 | |
制定 | 欽定憲法 | 民定憲法 |
主権 | 天皇主権・天皇大権中心主義 | 国民主権・権力分立主義 |
天皇 | 神聖不可侵の存在
国家元首で統治権の総覧者 | 日本国と日本国民総合の象徴
形式的・名目的な国事行為を行う |
戦争と軍隊 | 天皇に陸海空の統帥権・臣民に兵役義務 | 戦争放棄と一切の軍隊を不保持 |
国民の権利 | 臣民としての権利・ほうりつの範囲内での保障 | 社会権を含む基本的人権の保障 |
国会 | 天皇の協賛機関・二院制。貴族院は特権階級の代表、国政調査権はない。 | 国権の最高機関、唯一の立法機関、衆議院・参議院ともに国民の代表機関で国政調査権はあり |
内閣 | 天皇の輔弼機関、国務大臣は天皇に対して責任を負う | 最高の行政機関、議院内閣制を取り国会に責任を負う |
裁判所 | 天皇の名において裁判を行う、違憲立法審査権なし | 司法権の独立、違憲立法審査権あり、最高裁判間の国民審査 |
憲法改正 | 天皇の発議、帝国議会の決議 | 国会発議、国民投票 |
日本国憲法が成立するまで
この憲法は、平和主義や国民主権など世界でも稀な平和憲法としても知られています。
日本は太平洋戦争の結果、連合軍に完敗します。
その後、日本はアメリカ主導のGHQによって統治されることになりました。こうして日本を支配するGHQですが、当時の司令官・マッカーサーは、二度と日本が戦争を起こさないために憲法の制定に着手します。
マッカーサーは、日本が戦争を起こした原因を大日本帝国憲法だと考えており、この憲法に代わる新しいものを作るのがGHQの最大任務でした。まず、GHQは日本に新しい憲法の草案を作らせたのですが、提出された松本草案は、大日本帝国憲法に少し手を加えた程度のものでした。
天皇主権が改善されておらず、これでは埒が明かないと感じたマッカーサーは、他の民主主義国の憲法を参考にし、日本憲法の草案を作成し、このGHQ案を基に日本政府は憲法を作る事になりました。
こうした経緯を踏みながら、大日本帝国憲法に代わる日本国憲法は、国会で少々の手が加えられたのち、1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行されるのでした。
日本国民として押さえておきたい日本国憲法
日本国憲法には、国として様々な決まりごとが書かれていますが、その中でも国民として重要な、日本国憲法三大原則があります。
日本国憲法三大原則
日本国民として覚えておきたいのが、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重の日本国憲法三大原則があります。
国民主権
国民主権とは、国政の運営が国民の総意に従って?行わなければいけません。(私たちの総意に政治が動いているとは感じないのは別の話ですが…)
前文には、『ここに主権が国民に存する事を宣言し、この憲法を確定する』として、国民主権の原理を取ると明らかにされています。
国民主権の実現方法としては、国民が国の代表者を選任し、その代表を通じて国家の意思を決定する【間接民主制】を採用しています。一方で、憲法改正や最高裁判所の審査と言った重要事項については、一部で直接民主制的な要素を取っています。
大日本帝国憲法では国の主権は天皇で、国民の権利は法律の範囲内とされていましたが、日本国憲法ではそのようなことはなく、全ての国民に主権があり国の意思決定は国民が持っているとされています。
現在、国会で活躍している議員たちは私たちと同じ国民で、努力すれば国を動かすことだってできる憲法となっています。
平和主義
前文には、平和主義の理想を掲げるとともに、戦争の放棄・戦力不保持などを規定しています。この条項が日本国憲法の肝の部分でもあり、日本が平和憲法と呼ばれる要因にもなっています。
第9条では日本国民は戦争と武力の放棄をするとされており、また軍の保有を禁止しましたが、日本には自衛隊が存在しています。
これには、日本国憲法が公布される少し前に芦田均が国の交戦権は認めないというものを追加させます。この文章が自衛隊が存在する根拠の1つとなっており、この追加によって日本では【他国の侵略等のための戦争を行うための武力は放棄したが、日本が攻められた時の防衛時の武力は放棄していません】と言えるようになりました。
これを自衛権と言いますが、これによって日本は平和憲法なのに自衛隊と言う軍隊に準ずるものが存在する事になりました。
基本的人権の尊重
基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」であるとして、憲法の基本原理とすることを明らかにしています。
人が人であることにより当然に認められることをかんがみ、憲法で直接に保障する事としたものです。しかし、それは絶対無制限なものではなく、【公共の福祉】のために利用する責任を負い濫用が許されない他、公共の福祉のために必要である場合には、相当の権利を受けます。
ちなみに、【公共の福祉】と言いうワードは、様々な法律の前文に書かれていることが多いので覚えておくとよいでしょう。資格試験の法令などでよく出てきます。
簡単にいえば、国民には思想の自由など自身が思う思想や表現は保証されており、また差別を受けない権利があり、国はそれを阻害する法律の作成を禁止されているのです。
天皇について【第1条~第7条】
日本国憲法の最初の条文は天皇について書かれており、大日本帝国憲法上では神聖であり日本の主権となっていました。しかし、日本国憲法では天皇は日本国民の象徴として明記されており、第3条には天皇が行う行事や仕事(国事行為)などは内閣の承認が無ければ行うことができないと定められています。
ちなみに、天皇が行うとされる国事行為とは…
- 憲法改正の発議・法律の公布
- 国会の召集
- 衆議院の解散
- 国会の総選挙の施行の公布
- 大赦・恩赦の決定
- 栄典の授与
など、内閣の助言と承認の下、国においてとても大切なことを天皇は行なっています。
国民の自由・権利について
憲法第11条~13条までは国民の自由と権利について明記されています。
上にも書いた通り日本国憲法は国民の基本的人権は認められているとされており、その部分がこの条文に記載されています。しかし、現代では当時の憲法が作成されたことには存在していなかった新しい人権(日照権・プライバシーの権利・肖像権など)が重要視されるようになります。
その部分の自由はどこまでが保証されているのか?を解釈するのが最近の課題となっているのです。
第25条 生存権
全国民が健康的で文化的な最低限の生活を営む権利があるということが生存権で、国はそれを達成させるために社会福祉や社会保障を推進しなければいけないとされています。
この条文は、国の社会福祉ついて書かれており、これを基本として年金やセーフティーネットなど、私たちが安定した生活を送れるようにする仕組みを作るようなっています。
しかし、最近の世知辛いご時世でこの生存権を悪用している人がいるのも事実で、政府はそのような人をしっかりと罰せられるような法律を作らなければいけません。
第96条 憲法改正
最近何かと憲法改正の議論がとりだたされてますが、日本国憲法第96条ではこの憲法の改正について書かれています。先述した、新しい人権の解釈問題もそうですが、憲法が制定された時と現在の日本状況はかなり違います。
そういった時代によって変わる人々の意識と言うものに合わせて諸外国では憲法改正がされる事がしばしばあります。
日本でもそれは例外ではなく、この条文には衆議院と参議院の3分の2の賛成と国民投票において過半数の承認があれば憲法改正が出来るとされると明記されています。
とは言うものの、これまで日本では未だに憲法が改正されたことはなく、国民投票まで行ったこともないのが現状です。
国の最高法規である憲法
日本国憲法第98条では憲法は国の最高法規だと書かれています。
最高法規とは、全ての法律の一番上に位置すると言う事で、この日本国憲法より上にある法律は存在しないと言う事になります。憲法と言うのは、無茶な法律があればそれを無効することができるとされています。
この最高法規としての根拠が違憲立法審査権と呼ばれるもので、この権利は裁判所が持っており、全ての法律がこの憲法に違反していないかをきっちりとチェックしているのです。
憲法第9条の戦争放棄の解釈に限らず、人権の問題など今の時代にはそぐわない内容が多々出てきているのが事実です。第9条にこだわらず、今の時代に合った憲法改正を正しく行ってほしいものです。