わかりやすいA級戦犯と東京裁判の7人の被告人
A級戦犯とは、第二次大戦後に開かれた極東国際軍事裁判(東京裁判)において、日本を戦争に導く主導的役割を果たしたとされる東條英機、広田弘毅、松岡洋右らが犯した戦争犯罪を【平和に対する罪】として、他の戦争犯罪者と区別するために付けられました。
しかし、私たちは【戦争ですごく悪い事をした人の事】をA級戦犯だと思っていませんか?
実際に、何か事件が起きたときにその中心的人物の事を【A級戦犯】と表現する事がありますが、言葉の意味を理解するとこの表現ではおかしいと分かります。
そこで今回は、A級戦犯と東京裁判についてかいていきたいとおもいます。
A級戦犯とは
1945年に日本は第二次世界大戦で敗北をしました。
勝利した連合軍は、ポツダム宣言に従い戦後、日本の重要な戦争犯罪人を裁くために裁判を行いました。しかし、それを裁く法律が存在しなかったので、まずは極東国際軍事裁判所条例を作り、その第五条(イ)項で戦争犯罪に関して定義を作成し、それを元にして東京裁判(極東国際軍事裁判)を開きました。
後に、この法律は実行時に適法であった行為を事後の定めにより、さかのぼり違法とて定めた法律【事後法】と呼ばれ違法であると考えられています。
極東国際軍事裁判所条例には、3つの種類の罪が明記されていました。
A・平和に対する罪
B・戦争犯罪
C・人道に対する罪
英語で書かれたこの条例は、ABCに区分されA級戦犯は平和に対する罪で有罪となったものを言います。Bは戦争犯罪に対する罪で有罪となった者となり、ABCの区分は罪の程度を表したものではないことを覚えておきましょう。
B級戦犯の【戦争犯罪】は、戦争のルールを定めた戦時国際法・慣例への違反が挙げられ、C級戦犯【人道に対する罪】は大量虐殺・民族浄化と言った非人道的行為についての罪になります。ナチス・ドイツのように特定の民族を大量虐殺している場合は、C級戦犯となります。
こうして、例をあげるとC級の方が残虐的で実際に出た被害が大きく見えます。
とは言うのもののAよりBの方が罪が軽いと言うようなことはありません。
実際の判決でA級戦犯者が懲役刑で、B・C級戦犯者が死刑となった事例がいくつもあります。
東京裁判の戦争犯罪人の起訴まで
ポツダム宣言に基づき、1945年7月26日にアメリカ・イギリス・中華民国の名において大日本帝国に対して無条件降伏を求めるポツダム宣言が発せられました。その宣言の中には、【われらの捕虜を虐待した者を含む一切の戦争犯罪人に対しては厳重な処罰が加えられる】とあります。
さらに、8月8日には、イギリス・アメリカ・フランス・ソビエト連邦が【欧州主軸の重要戦争犯罪人の訴追求及び処罰に関する協定】ロンドン協定を締結し、8月10日にはこれを日本が受諾しました。
9月2日には日本の降伏調印式が行われています。
その後、アメリカよりダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官が中心になって東条英機を逮捕し、戦争犯罪人容疑者のリスト作成が行われました。この時、アメリカ政府は占領政策の円滑化のために日本に天皇が欠かせないと思っていたようで、昭和天皇の訴追は行っていません。
日本人のA級戦犯者たち
アメリカ軍の憲兵司令部への出頭命令を受けた戦犯容疑者達は126名。
それ以外に、5名が逮捕や出頭前に自殺をしています。
逮捕者の中でも、28名がA級戦犯者として昭和天皇の誕生日4月29日に起訴され、病死や精神障害で裁判が出来なかった3名をのぞき、25名が東京裁判を受けました。
その内、7名の者がA級戦犯者として死刑判決を受けました。
- 東條英機(陸軍大将、元首相)
- 土肥原賢二(陸軍大将)
- 松井石根(陸軍大将)*刑はB級戦犯での処刑・A級では無罪
- 武藤章(陸軍中将)
- 板垣征四郎(陸軍大将、元陸軍大臣)
- 広田弘毅(元首相)
- 木村兵太郎(陸軍大将)
判決後、1948年12月23日の皇太子明仁親王の誕生日に真夜中の巣鴨プリズンで絞首刑を執行されました。これら天皇、皇太子の誕生日を起訴や死刑執行日に選んだのは、訴追できない天皇に対する連合国側の意図があったと言われています。
日本ではA級戦犯最も重い罪と認識
なぜか日本では、A級戦犯が最も重い犯罪を犯した者の代名詞となっています。
また同じく敗戦国のドイツでは、ABCの区分に【共同謀議の参加※】という罪を加えた4つの分類分けがなされており、ABC級戦犯という言い方は定着していません。実は、極東国際軍事裁判所条例の日本語版ではABCではなくイ・ロ・ハによる分類だったようで、「イ級戦犯」、「ハ級戦犯」となっていたようです。
しかし、ゴロが悪いのか締まらないからなのかいつからかABCと言われるようになりました。
※共同謀議の参加…違法行為を共同して行う事を言います。
現在の日本では、明らかに等級として罪の重さを強調しているような例ばかりなんですが、政治家や企業の経営などで、悲惨な結果をもたらした決定を行った指導者に対して、戦争を決定した指導者の罪を指す「A級戦犯」と表現するのは少し通ずるところはありそうな気がします。